第35回モントリオール世界映画祭の審査員特別グランプリ受賞をはじめ、シカゴ、LA、韓国、ハワイ、インドと様々な国際映画祭の出品作に名を連ねるなど、海外からの絶賛の声を受けた本作ですが、4月18日(水)、日本外国特派員協会主催の試写会、および、役所広司、樹木希林、原田眞人監督を迎えた記者会見が行われました。会見は、終始笑いが絶えない和やかな会見となりました。

■日本外国特派員協会 記者会見
【日時】4月18日(水) 17:35~
【場所】日本外国特派員協会
【登壇者】役所広司、樹木希林、原田眞人監督


【ご挨拶】
●原田眞人監督:今日はありがとうございます。前回、『クライマーズ・ハイ』でこちらに来させていただきましたが、その時はこのようにたくさんの方々はいなくて、確か10~20人くらいだったかと思います(笑)。

この作品で私はシフトをしたい思いました。それは何かというと、この作品は小津(安二郎)監督にオマージュを捧げたいという気持ちで作りました。それに関しての詳しいご質問は、後ほど開かれるパーティーに私も参加いたしますので、その時に是非お聞き下さい。

また、私は黒澤明監督を心から尊敬しているのですが、この映画に登場する御殿場の神社も、黒澤監督が『七人の侍』でラブシーンを撮影した場所なんです。そういった形で黒澤監督への気持ちもこの作品には入っています。

●役所広司さん:前回は、『聯合艦隊司令長官 山本五十六』でここに来させていただきましたが、今回の方が記者さんの数が多いように感じます。

原田監督とは10年ぶりに仕事ができました。僕の母は既に亡くなっているんですが、撮影中は母のことをたくさん思い出せた時間でした。この映画を色々な国で「面白かったよ」と報道してくれることを心から願っています。

●樹木希林さん:この映画は、2011年3月10日に沼津の海岸で撮り終えたのですが、次の日に津波が来たんです。そうして、完成した映画がモントリオール(世界映画祭)にいって、審査員からの評価を受けましたが、そのときの皆さんの眼差しが、「あんなに美しかった日本が、あんな風になってしまって…」という気持ちと共に「がんばれよ」と言われているように感じました。今日もそう感じています。ありがとうございます。


【質疑応答】
●海外メディア記者 メアリーさん:素晴らしい映画をありがとうございました。世界各国が抱えている問題や認知症など、とても普遍的なテーマが描かれていると思いました。さらに、古き良き日本や四季も描かれています。

●原田監督:世界中の方々に観てほしいと思いましたが、今回、井上靖先生の「わが母の記」を選んだのには訳があるんです。

ノーベル賞にもノミネートされた井上先生ですが、結局受賞することはありませんでした。でも、ご自身の幼い頃や半生を描かれた2冊というのが、数ある作品の中でフランス語訳されていて、それが、「わが母の記」と「猟銃」です。海外でも知られている作品ということもあり、そういった意味でも今回この映画を作ろうと思いました。

●日米友好基金 シェイ・アンドレットさん:とても楽しませていただき、感動しました。とても有名な作品ですが、映画化に際して原田監督が考えていた方針などがあったらお聞かせ下さい。

●原田監督:原作の「わが母の記」は、実際は一人称で書かれているのですが、主人公の名前は登場せず、物語の途中で1回だけ「やすし」と呼ばれるんです。そして、それは平仮名なんですよね。ですので、今回敢えて、井上先生の実体験を元にした小説「しろばんば」に出てくる伊上洪作という名前を使ったんです。

原作では、2人の娘と2人の息子がいるんですが、「リア王」のイメージにしたくて、今回は3姉妹にしました。そうやって、松竹のプロデューサーの石塚(慶生)さんと練っていって、最終稿にまで至りました。

●翻訳家 ドン・ブラウンさん:原田監督作品の中でも大変素晴らしいと思いました。樹木さんは、テレビで認知症治療のCMに出ていらっしゃり、今回の映画の中でも認知症の母親役を演じられましたが、役作りとしてリサーチなどはされたんでしょうか?

●樹木さん:私はおおざっぱな役者なので、リサーチはしないです。ただ、年齢がもう70歳になるので、日本では他に認知症の役をやりたがる女優がいないので、私に回ってきたんです。

●原田監督:付け加えると、僕とプロデューサーは、この役を樹木さんに演じていただくためには、樹木さんを口説き落とさなくちゃいけないと思っていたんです。

最初は、「私はまだ若いからできない」とおっしゃっていたのですが、実際に樹木さんにお会いしてみたら、その場に、樹木さんは既に八重さんモードになって来て下さったんです。僕らは非常に感銘を受けて、今回はもう樹木さんに全てお任せすることにしました。

●日本翻訳協会 石井さん:樹木さんの老け方がとても美しくて、頬のくぼみ具合などもすごくて、本当に感動しました。演技もとても自然だったんですが、役作りや工夫はされましたか?

●樹木さん:日本の映画は貧しいんです。発想が貧しいのではなく、経済が貧しいんです。ハリウッドの『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のように、メイクアップのアーティストがいて、時間とお金をかけてやっていただけないんですよ。

撮影の順番も、若い時を撮っていたかと思ったら、1時間後には年を取ったシーンを撮ったり、配慮というものは一切ありません。準備は大変だったと思いますが、監督は四季を1ヶ月で撮っているんです。ある時、夏のシーンを軽井沢で撮影していた時、2月だったんですが雪が降ってきたんです。

そうしたら、すごい才能だと思うんですが、監督はすぐそのシーンを書き換えて、雪のシーンにしたんです。アクシデントと思える出来事も、全部自分で料理するんです。ですから私も、どのような状況にあっても、それに沿うように老けていきました。

●会場:(ここで笑いと共に拍手が起きる)

●樹木さん:センキュー!(会場笑い)

●海外メディア記者 タイムアウト東京 ジェイムズ・ハッドフィールドさん:モントリオールをはじめ、様々な海外の映画祭でも評価されている、本作ですが、米アカデミー賞でのノミネートなどの噂もあります。その可能性についてはどう思いますか?

●原田監督:とてもよい質問なんですが、今年の9月までは分からないですからね。それに、僕はこの業界であまり好感を持たれていないようなので、どうでしょうかね(会場笑い)。

●樹木さん:私の娘婿が出演している『おくりびと』も外国語映画賞をいただいていますが、私も好感を持たれてない役者なので難しいと思います(会場笑い)。

●役所広司さん:僕はもう授賞式のためにスケジュールも空けて、英語でスピーチができるように準備をしています(会場笑い)。

●海外メディア記者 スクリーンインターナショナル ジェイソン・グレイ:特に主演のお二人、そして他の出演者の素晴らしい演技に感銘を受けました。先ほど、今回はあまり予算がなかったというお話がありましたが、室内の家族団欒のシーンがあったかと思えば、その一方で、西洋的なリゾート地での家族旅行、ハワイに行くための船の中、そういったコントラストがはっきりしていたと思うのですが、2つの全く違う雰囲気の場所で撮影をされて、監督を含め、俳優の方々はいかがでしたか?

●原田監督:この作品は、約250万ドル(2.8億円)で制作をしました。その予算の中で、色々なセットを作るのはとても難しく、井上家を作るのは無理だったんですね。

でも、幸運なことに、井上先生のご家族の許諾を得て、実際に暮らしていた世田谷のお宅を撮影で使わせていただけたんです。ただ、5月に解体し、移築してしまうということだったので、撮影を急がなくてはいけませんでした。本当に時間との戦いだったのですが、何とか解体される前に撮影ができました。

実際に井上先生のお宅で撮影が出来ていなければ、本当にこの映画は作れないと思っていました。井上家の軽井沢の別荘も使わせていただきましたし、小説にも出てくる川奈ホテルも幸運なことに松竹の社長さんとオーナーと懇意だったというのもあり、使わせていただけました。

また、そのオーナーの後藤社長は元銀行家なんですが、後藤さんをモデルにした『金融腐食列島 呪縛』という作品を撮った時、その中で役所さんが演じた役が、後藤さんの役だったんですよね。本当に、そういった不思議な縁があって撮影ができました。

●樹木さん:そういえば、ハワイに行くための船のシーンですが、あれは突然雨が降ってきたんですよね。それで船を見送る人たちの人数も少なかったんですが、みんなが黒い傘をさしたおかげで、とてもいいシーンになったというのもありました。監督の持っている運というものあるのかもしれませんが、やっぱり監督の力量だと思います。

●役所さん:日本映画は、低予算で撮ることに対して鍛えられているので、そのような偶然がが立て続けに起こって、ラッキーだと思いました。それと、撮影中の食事はみんな弁当なんですよ。だから、僕達の体はほとんど弁当でできています(会場笑い)。忙しく働いてれば働いている人ほど、その人の体は弁当でできています。

原田監督には、自分の運などだけではなく、ふんだんな予算と時間を与えて、いつか撮影してほしいですね。おそらくハリウッドから莫大な予算があって、「これで映画を撮ってくれ」と、言われる日が来るかもしれないですが、その時は原田監督はきっと、「この予算で4本とらせてください」と言うでしょうね(会場笑い)。

●TBSテレビ カナヤさん:監督と役所さんはドラマ「初秋」でもご一緒されていましたが、それぞれのアプローチの違いを教えて下さい。

●原田監督:あれは『わが母の記』以上に、もっと強い運が必要でしたね。映画のスピンオフの作品で、井上靖が主人公なのですが、より小津監督へのオマージュ色は強いですね。

●役所さん:俳優としては映画と同じ感じでいました。映画の撮影は1ヶ月かかりましたが、ドラマでは2週間で撮影ができたので、「何だ監督、撮ろうと思ったら、こんなに早く撮れるじゃないか」と思いました。だから、あの時は弁当は2週間だけでしたね(会場笑い)。

●海外メディア記者 ヘクター・ルシアさん:最近ちょっとした仕草など、自分自身も父親に似てきたと思っているんですが、役所さんもそのようなことはありますか?

●役所広司さん:特に癖とかが似てきているとは思っていませんが、最近いびきをかくと言われますね。子供の時、父親のいびきがすごくて、テープレコーダーに録音したこともありました。僕は家内に小突かれたりしていますが(笑)。

会見写真
 
◆ 『わが母の記』 4月28日(土)公開
http://www.wagahaha.jp/
 
 
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2012-04-19 (木) 13:56 / Top↑
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